気候危機の治水を考えよう~江戸川区スーパー堤防差止等訴訟最高裁棄却

10月29日、江戸川区スーパー堤防差止等訴訟について最高裁第一小法廷(池上政幸裁判長)は棄却を決定しました。理由は「民事事件について最高裁判所に上告することが許されるのは民訴法312条1項又は2項の所定の場合に限られるところ、本件上告の理由は、違憲を言うが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない」というもの。

2014年11月、国と江戸川区を相手取り、スーパー堤防事業の差止め等を求め提訴。昨年7月16日の控訴審判決を受け、同26日、弁護団は声明を発表、上告していました。1年3ヶ月経っての最高裁決定。スーパー堤防(高規格堤防)事業に関する初めての裁判は、第一次裁判から9年間に及ぶ闘いとなり、結果、住民敗訴という形にはなりましたが、これをもってスーパー堤防事業が将来にわたり有効な堤防強化策であるということではないはずです。毎年起きている甚大な水害被害を前に、速やかに、効果的に堤防を強化していくことが喫緊の課題であることは論を待たず、流域住民の被害を未然に防ぐため、治水の要諦を見極め、今後どう進めていくかは大きな課題として残ったままです。

(*第一次裁判:2011年11月提訴 江戸川区スーパー堤防取消訴訟/第二次裁判:13年11月提訴 江戸川区 スーパー堤防事業仮換地処分取消訴訟

ところで、裁判というものをこれほど間近で見聞きするのは初めてのことでした。明快な陳述によりことが運び、公正な裁きがなされるものかと思いきや、どうもそうではないよう。よろしくないことをするはずがないとされる国や自治体を相手取る場合余計そうなのだろうと思われます。そもそも口頭弁論と言っても書面のやりとりが主で、特に被告側は必要最小限の言葉しか発しない。証人尋問で聞かれたことを答えなくても、常識とかけ離れた発言をしても何ら問題はないよう。こちらから。

さて、昨年の台風19号では、国管理の河川12ヶ所、県管理128ヶ所で堤防が決壊し、うち86%が越水によるものでした。国交省は、越水により川裏(住宅地側)の土が削られたことを重視。私たちがこれまで求め続けてきた耐越水工法「フロンティア堤防」を18年ぶりに復活させ、「粘り強い河川堤防」として千曲川で施行することになりました。封印の経緯はこちらから。

今日の気候危機による集中豪雨など思いも及ばなかった33年前に創設されたスーパー堤防事業は、築堤に長期間を要し、住民の負担も過大であることは裁判でも共有された事実です。

いつ完成するかは知れず、効果のほどは未知数の、言うところの<越水しても壊れない堤防>に固執し、極めて部分的な整備を続けるのか。<越水しても決壊に至る時間を引き延ばせる耐越水堤防>を速やかに整備していくのか。

スーパー堤防は人口と資産が集中する首都圏と大阪圏を守るとして設定されました。しかし、東京と大阪においても、答えは自明ではないでしょうか。

 

*西島和弁護士が9月、現代書館より「日本の堤防は、なぜ決壊してしまうのか?――水害から命を守る民主主義へ」を出版されました。ぜひお読みください。